鹿児島県経済連・肥料農薬課
有機農業の定義
有機農業の定義は「有機農業の推進に関する法律」(平成18年法律第112号)の第二条において次のように定義されている「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」としている。
本県における茶有機栽培の取り組み
最近、国、本県とも今後有機農産物生産を拡大する推進方針が示され、茶業においても本県では平成30年にかごしま有機抹茶輸出促進基本構想が作成され、令和元年の有機栽培茶園面積は500ha(全面積の6%)を超え、うち有機JAS栽培面積も400ha(全面積の5%)を上回り、生産量は全国の44%を占め、全国第1位となっている。今後の目標も令和10年には有機JAS認証茶園面積900ha(全面積の10%以上)、有機抹茶の輸出額を20億円としている。
今後有機栽培茶園の面積は、米国、EUなど外国の有機抹茶等の需要の高まりによる輸出の推進および国内需要でも漸増などからさらに増加することが考えられる。
茶における有栽培の課題と防除法
有機栽培の課題は、化学合成された農薬の使用ができないため的確な病害虫防除ができず、被害を受けることである。このため抵抗性品種を積極的に利用(病害、クワシロカイガラムシ)し、その他整・剪枝(炭疽病、輪斑病、ウンカ、スリップス、ハマキムシ類)被覆(炭疽病、チャノホソガ)などによる耕種的防除法、スプリンクラー散水(クワシロカイガラムシ、チャノホソガ)吸引・送風式防除機(ウンカ、スリップス、ハダニ、サビダニ、炭疽病)黄色高圧ナトリユームランプ(チャノホソガ)利用等の物理的防除法、ハマキ天敵(ハマキムシ類)、性フェロモン剤のハマキコンN(ハマキムシ類)、天敵昆虫・ダニ(クワシロカイガラムシ、ハダニ、チャトゲコナジラミ)などによる生物的防除法等を積極的に利用しなければならない。
なお、有機農産物は、農薬・化学肥料等の化学合成資材を3年以上使用せず栽培しなければならない。また、一般園等からの化学合成農薬のドリフトやコンタミ等がないよう十分配慮しなければならない。 ここでは、有機栽培茶園に使用できる限られた農薬とその特徴・使用法、対象病害虫、使用法などを紹介します
1.有機JAS栽培茶園等に使用できる薬剤と病害虫
1)殺菌剤・・・病害
防除銅水和剤 (クプロシールド コサイド3000 サンボルドー ドイツボルドーA フジドーLフロアブル ムッシュボルドー クミガードSC ICボルドー ボルドー液など)
適用病害・・・炭疽病 網もち病 もち病 赤焼病 褐色円星病
特長と使用法・・・自然界にある銅を有効成分とし、銅の殺菌力で、予防効果を示し、病害の感染を防ぐ。感染前に散布する。防除効果は網もち病、もち病には高い効果を示すが、炭疽病には他の化学合成剤に比較しやや劣る。赤焼病にもやや効果が低く、多数回散布が必要である。耐性菌の発生の恐れはない。
2)殺虫剤・・・害虫・ダニ防除
マシン油剤 (スプレーオイル ハーベストオイル トモノールS ラビサンスプレー)
適用害虫・・・カンザワハダニ サビダニ チャトゲコナジラミ クワシロカイガラムシ
特長と使用法・・・卵や虫体を油膜で被覆し窒息させるほか、気門や皮膚から浸透し死滅させる。散布むらがあると効果が上がらない。主に越冬状態の害虫に有効である。茶芽の生育期は薬害発生や薬臭、油膜等発生のため使用できない。防除効果はカンザワハダニ、チャトゲコナジラミには越冬期防除で有効である。クワシロカイガラムシに対する効果は、夏期更新後散布は有効であるが、越冬期散布では低い。天敵への影響は少なく、薬剤抵抗性の発現の恐れはないが、茶休眠芽・葉への凍害や赤焼病の発生を助長する場合がある。
BT剤(エスマルクDF サブリナフロアブル ゼンターリ顆粒水和剤 チューンアップ顆粒水和剤 デルフィン顆粒水和剤 トアロー水和剤CT チューリサイド水和剤 バシレックス水和剤)
適用害虫・・・チャノコカクモンハマキ チャハマキ チャノホソガ シャクトリムシ
特長と使用法・・・主成分は細菌バチルス・チューリンゲンシスの菌体および産生の結晶毒素である。鱗翅目害虫の幼虫に有効で、幼虫が摂食し食毒効果を示す。結晶毒が幼虫のアルカリ性中腸消化液で溶け中腸を傷つけ食中毒様で致死させる。若齢幼虫に対する効果が大きく、散布適期を失しないようにする。防除効果は化学合成剤に比較し緩慢で劣る。チャノコカクモンハマキ、チャハマキ、チャノホソガ、シャクトリムシなどに有効であるが効果はやや低い。チャノホソガに対しては幼虫の葉縁卷葉期散布で虫糞排出抑制効果があるが、卵、葉潜卷葉期散布の効果は低い。
顆粒病ウイルス(ハマキ天敵)
適用害虫・・・チャノコカクモンハマキ チャハマキ
特長と使用法・・・コカクモンハマキ、チャハマキに寄生・死亡させる天敵ウイルス製剤で、ふ化後の若齢幼虫がウイルスを摂食して感染し、蛹化前に死亡する。ウイルスは罹病虫体内で、増殖し、死亡後茶園内周辺に分散し、次世代発生幼虫へ継続伝搬し、感染・発病を数世代繰返す。防除効果はウイルス散布翌世代から発現し、数世代持続する。第1-2世代1回使用で、概ね秋期まで防除効果が持続する。ハマキムシの世界にウイルスを広くまん延させることが大切で、広域一斉処理が望ましい。若齢幼虫にしか感染せず、散布ウイルスは紫外線等により1週間程度で活性を失うため適期散布が重要である。散布適期はでフェロモントラッフによる発蛾最盛日の10~17日後である。微生物のウイルス剤のため冷凍保存し、解凍後速やかに使用する。人畜・魚介類・天敵昆虫などに感染せず、安全性は高い。
合成性フェロモン剤(ハマキコンN)(ディスペンサー製剤 ロープ製剤)
適用害虫・・・チャノコカクモンハマキ チャハマキ
特長と使用法・・・ハマキムシの雌成虫が放出する性フェロモンの合成剤である。ハマキムシ雌雄の交信撹乱で、交尾行動を阻害し、交尾率を下げ、産卵密度の低下、幼虫密度抑性を期待する防除剤である。効果発現は遅効的、第1回成虫期処理で、6ヶ月程度発生を抑える。大面積処理で効果が安定する。害虫密度状況(多)で、効果が不安定化することがある。ディスペンサーとロープ製剤があり、ディスペンサーは樹冠面下10cmの枝へ設置するため手間を要する。ロープは茶園周辺部に張り巡らすので比較的に容易である。(ディスペンサー150~250本 ロープ30~50m/10a)種特異性高く、人畜、他生物、天敵などへの影響がなく、安全性が高い特徴がある。
天然ピレトリン剤(除虫菊乳剤3)
適用害虫・・・チャノホソガ シャクトリムシ
特長と使用法・・・除虫菊成分のピレトリンを有効成分する剤で、昆虫の気門皮膚から浸透し、神経を麻痺させ速効的に殺虫する。残効性は劣る。殺虫効果は合成農薬に比較し緩慢で、劣る。適用害虫は少なく、チャノホソガとシャクトリムシに登録がある。眼や皮膚に対して刺激性があるので注意する。
脂肪酸グリセリド剤(植物ヤシ油剤)(サンクリスタル乳剤)
適用害虫・・・カンザワハダニ サビダニ類 チャノホソガ
特長と使用法・・・食用油の植物ヤシ油成分の脂肪酸グリセリド剤で、マシン油と同様油膜で虫体を覆い、気門封鎖などにより窒息致死させ、殺ダニ・殺虫効果を示す。効果は化学合成殺ダニ剤、殺虫剤に比較し緩慢で、劣る。カンザワハダニ、サビダニ、チャノホソガに有効で登録がある。薬剤抵抗性発現の恐れは少なく、天敵への影響も少ない。高温時には薬害を起こすことがあるので、留意する。
スピノサド剤(スピノエースフロアブル)
適用害虫・・・チャノコカクモンハマキ チャハマキ チャノホソガ シャクトリムシ チャノキイロアザミウマ
特長と使用法・・・放線菌が産生するスピノサドを有効成分とする薬剤で、JAS有機・栽培農産物などに使用しても化学合成農薬の散布回数としてはカウントされない。昆虫の神経伝達に関るニューロン接合部のニコチン性アセチルコリン受容体を活性化し、異常興奮、麻痺を起こし、殺虫する。食毒、接触毒として作用し、鱗翅目害虫、アザミウマ類に卓効を示す。速効的に作用し、残効性は低い。チャノコカクモンハマキ、チャハマキ、チャノホソガ、シャクトリムシ、チャノキイロアザミウマに対し有効である。
ミルベメクチン剤(ミルベノック乳剤) 適用害虫・・・カンザワハダニ チャノホコリダニ サビダニ類 チャトゲコナジラミ コミカンアブラムシチャノホソガ
特長と使用法・・・放線菌産出の天然物由来のマクロライド系ミルベメクチン剤で、神経伝達系CABAに作用し、伝達阻害により麻痺を起し、主に殺ダニ作用を示す。接触毒作用もあるが、吸汁毒作用が顕著で、殺成虫、殺幼若虫効果が高く、産卵抑性効果もある。極めて速効性で、残効性はやや劣る。カンザワハダニの多発時の速効性を期待する状況での防除に適する。カンザワハダニ、サビダニ類、ホコリダニ類など広範囲のダニに有効で、チャトゲコナジラミにも効果があり、チャノホソガ、コミカンアブラムシにも登録がある。天敵、ケナガカブリダニに対し影響がやや強く、散布20―30日後にカンザワハダニの異常増殖がみられることがあるので留意する。