第13号 主要病害虫の生態と防除シリーズ クワシロカイガラムシ

鹿児島県経済連・肥料農薬課

発生と防除のポイント

被害の大きい難防除害虫で多発生が続いていたが最近発生は少なくなっている。発生減少は、特効薬プルートMCの普及や選択性殺虫剤の使用によって天敵類が活性化していることが要因と思われる。年3回発生であるが、県南部の暖かい地域では4回発生することもある。防除時期である幼虫ふ化最盛期は5月上中旬、7月中下旬、9月上中旬である。寄生枝の雌成虫で越冬し、4月中旬から介殻内に産卵する。
寄生枝の産卵・ふ化状況調査や日平均気温を利用した予測法で防除適期であるふ化最盛期を把握して薬剤防除する。幼虫ふ化最盛期から5日後位が防除適期で、これより早くても遅くても効果がかなり劣る。また、枝条寄生のため散布量は1000L/10aを必要とする。最近では、1~3月の越冬雌成虫休眠期に散布できるプルートMCが普及し防除も容易になっている。

発生生態

●害虫の種類

昆虫・半翅目

●発生の状況

ほぼ普遍的に発生 最近発生は減少傾向  被害極めて大

●形態と診断

寄生・加害特徴:幹・枝条  白い雄繭・雌介殻付着 茎葉黄化・枝条枯死
初発生、少発生では周辺部や局部的発生、ひどくなると全面に発生
成虫:雄は有翅0.7~0.9㎜赤黄色 翅の開張約2㎜  飛翔する
   雌1.7~2.8㎜の灰白色介殻に覆われ、虫体は黄褐色1.7~2.0㎜
卵 :雌介殻内に産卵 長径0.2㎜ 雌卵は淡紅色 雄卵は白色
幼虫:1齢 体長0.3㎜楕円形 雌は淡紅色、雄は白色
1~2日間歩行後枝に定着し、介殻形成
   2齢  雌は体長0.5~0.9㎜・黄色広円形、介殻は灰褐色広楕円形
      雄は体長0.5㎜・黄色、介殻は短楕円形・白色綿糸状物形成
   3齢  雌は体長1.2~1.5㎜・黄色広円形、介殻は約1.2~1.7㎜
蛹 :(雄)体長0.6~1.0㎜・橙黄色 繭内で胸部に翅、脚形成
   繭は白色で細長い綿質の袋状、約1.2㎜ 

●被害の様子

被害初期は葉色が悪くなり、芽伸びも悪くなる。被害が進むと枝梢や幹が枯死し、茶園が荒廃する。 夏期、乾燥期は枯死など被害進展が激しい。減収程度は発生や樹勢により異なるが、多発すると、極端な減収となる。

●生態・生活史

越冬:受精した雌成虫(枝) 越冬虫の産卵は4月中旬  

産卵:50~150粒 数日~十数日間産卵

生殖:有性生殖で、交尾は未熟雌成虫時 雄成虫は交尾後1日で死亡

発育適温:20~30℃  30℃以上で発育遅延、33℃以上で死亡
発育零点:7.1℃ 休眠後の雌成虫が産卵するまでの発育零点10.5℃
移動:ふ化幼虫は1~2日しか歩行できない 距離30㎝程度
気流や小動物・作業機などに付着して移動が考えられる
寄生植物:桑・桜・センダン・柿など約28種

●発生消長

一般的な幼虫ふ化最盛期は5・7・9月の年3回であるが、年、地域により差があり、高温年や温暖な地域では年4回発生することもある。

●発生条件

幼虫ふ化時期に降雨が少なく、乾燥した年は多発生する。
直射日光を嫌い、通風の悪いところに発生しやすい。
品種により顕著な発生差がある。(「さやまかおり」「みなみさやか」には殆ど発生しない)

●天 敵

影響大
越冬成虫ではチビトビコバチ、ヒメコバチ、ベルレーゼコバチなどの寄生蜂やタマバエの発生が多く、3月以降はヒメアカホシテントウなど捕食性天敵やナナセットビコバチ、キムネタマキスイが多くなる。「しょうこう菌」、「灰色こうやく病菌」の関与も考えられる。

防除方法

●防除のポイント

① 薬剤防除は幼虫ふ化最盛期に行うのが最も効果的であるのでふ化最盛期を予察して適期防除する。
② 散布ムラがあると、効果が低く、密度回復が早くなるのでかけムラがないように散布する。
③ 周辺に無防除発生園があると、これが発生源になるので地域ぐるみの一斉防除が望ましい。
④ 多発生園の第3世代防除は、ふ化期間が長く続くため2回散布とする。
⑤ 越冬期防除剤のプルートMCは長期残効があり、2年程発生を抑えられる。
⑥ 発生が多く、被害が進んだ園では、中切り更新して防除する。
⑦ マシン油による晩秋~冬期の防除は効果が低く実用的でない。

●防除適期の予測法

1 寄生枝水挿し法     
2 粘着トラップ法
3  発生ほ場寄生枝採取による産卵・ふ化状況調査法
・・・・・50%以上ふ化した卵塊を持つ雌成虫の割合が60~80%に達した時が防除適期 (ふ化最盛期)

※調査の具体的方法

⑴ 調査茶園から雌成虫(介殻)が寄生している枝を5-10本採集する。

⑵ 5-10本の枝の雌成虫介殻を30-50個開いて検鏡観察し、個々でなく全個体で判断する

⑶ 産卵状況は調査雌介殻の平均産卵量で判断する。
未産・・・調査雌介殻すべて未産卵 (天敵寄生などで産卵しないものは除く)
初期・・・調査雌介殻の平均卵数が概ね10卵以下
中期・・・     〃        10-50卵
末期・・・     〃          50卵以上
眼点期・・・産卵された卵に黒い眼点が形成された状態の時期で、ふ化直前である。

⑷ ふ化状況は調査雌介殻を剥ぎ、平均的なふ化状況と卵脱皮殻の状況で判断する。
極始め・・・調査枝上をふ化・歩行幼虫が数頭みられる  雌成虫介殻内の卵塊の中に数頭動くふ化幼虫がみられる
始め・・・調査枝上をふ化・歩行幼虫が十数頭みられる  雌成虫介殻内の卵塊の中に5頭程度動くふ化幼虫がみられる 卵脱皮殻も僅かにみられる
初期・・・調査枝や雌成虫介殻内の卵塊内にふ化・歩行幼虫が産卵量の10-20%程度みられ、卵塊中の脱皮殻も産卵量の10-20%程度認められる
中期・・・調査枝や雌成虫介殻内に産卵量の20-50%ふ化幼虫がみられ、一部定着
ふ化卵率・・・枝単位概数で  (例えば 10-20%  30-40%)
極始め・・・1%以下  始め・・・1-5%  初期・・・10%程度

⑸ 定着状況  ふ化幼虫が枝条に定着し、動かなくなった状態である。
ふ化後1-2日で定着  ふ化初期頃から定着もみられる。
定着初期 中期 後期  ふ化最盛期(80%以上定着)。

⑹ ふ化最盛期(防除適期)の予測 
50%以上ふ化した卵塊を持つ雌成虫の割合が70-90%に達した時

4 日平均気温を利用した防除適期予測

☆1世代予測・・・1月1日を起算日とし、日平均気温(百葉箱)、発育零点
有効積算温度により第1世代の防除適期を予測できる。  
1月1日を起算日とし、日平均気温から発育零点(10.5℃)を引き、  
積算値が322(日度)となる日が1世代防除適期

☆2・3世代予測・・・前世代の防除適期、日平均気温(百葉箱)、発育零点、
有効積算温度により次世代の防除適期を予測できる。  
前世代の防除適期を起算日とし、日平均気温から発育零点(7.1℃) 引き、
積算値が1000(日度)を越える日が次世代の防除適期

耕種的防除方法
散水防除法 畑かん地区での散水防除法は、産卵末期頃から幼虫ふ化定着期まで約2週間、日中のみ間断散水(10分散水、20分無散水)し、卵、幼虫を死滅させる。